実話をもとにしたフィクション

実話を基にしたフィクション、それはもはやファンタジーだろう。これは僕の人生を大幅に改変した物語である。

第1話 バニラエッセンス

 『君は卒業するのに7年くらいかかりそうだな。』

高校時代の彼の担任が、大学に入学したての彼にそう言った。彼はたいした返事もせず、苦笑いをニキビ面に浮かべた。

 クリ須・リバー。近所に住む人なら誰でも知っているほど有名な総合大学、K大学工学部に所属する彼はキラキラネームを携えた日本人である。通学途中に青い自転車に乗って渡る橋からの眺めと大学の食堂で食べる大学芋だけが彼の生き甲斐だった。乾いた風が耳を掠める爽やかな春の日、食堂のカウンター席に座り、彼は問いかける。

大学芋を選ぶ時、君はどこを見る?どこを見て、その大学芋がアタリかハズレかを判断するんだい?」

この言葉に誰も返しはしなかった。当然である。彼に友達は1人もいないし、大学で誰かと食事したこともないのだ。

「蜜の多さ?いいだろう。芋と蜜の光沢?それもいいだろうね。芋の大きさ?おいおい、冗談は君の恋人の顔だけにしてくれ。空腹を満たしたいだけならカレーライスでも飲めばいいじゃないか。大学芋において大切なのは大きさじゃない、角だよ。角が多くて硬い大学芋ほど食べごたえがあるってもんさ」

大学芋について語り終えると、彼はドヤ顔で席を立った。次の線形代数学まであと45分。常に独りの彼にとって昼休みは少し長すぎるようだ。彼は前歯の間に挟まったカツの破片を気にしながら、呟いた。

「今日の芋はちょっと小さすぎたな…」

小さな矛盾、それが彼の人生のエッセンスだった。