第3話 スカイライン
「隣の芝と子どものケツは青い」
とはよく言ったものだ。その通りであろう。
クリ須・リバー。日常生活においては鴨川に架かる橋から空を眺めることが彼の生き甲斐であったが……しかし、彼はついに日常を離れた。そう、あれは確かセミのコンサートホールを鈴虫が買収した頃だった。彼は独り、フランスにやってきたのだ。草原、緑の丘。野生なのか、家畜なのかすらわからない動物たちがそこにはいた。小さな太陽。広い空。漂う雲。地平線は遥か彼方に見えた。山に、ビルに空が閉じ込められてしまった日本とは違う…どこまでも歩いて行けるような気がした。そして、同時にいくら歩いても目的地には辿り着けないような気がした。自分はちっぽけで、大地と大空に挟まれた視覚でしかない。それが、その感覚が、彼の求めていたものだったのだ。
彼は気づいていた、この風景がここに住む人にとっては当たり前で、もちろん魅力的ではあるが、自分が感じているような感動を、彼らが味わうことはないのだろうと……そして、彼も外国人が日本で感じるような感動を味わうことはないだろうということを……
「帰国したら銀閣寺に行こう。」
彼はこう見えて寺巡りが好きだった。